乙野四方字さん講演会(in豊後大野市)レポ

豊後大野市へ

アクアマリンの指輪は何処から来たかでも触れた、
『君を愛したひとりの僕へ』『僕が愛したすべての君へ』の舞台が大分ということで、
そのうち機会があったら巡礼しに行きたいなと思っていたところ、
原作者の乙野四方字さんが、出身地でありスピンオフ小説の舞台モチーフにもなっている
豊後大野市で講演会登壇されるということを聞き、今こそ!と行ってきました。

講演前日に1日掛けて大分市を巡ったレポは、写真が多すぎるので他所でまとめるとして…。

当日は講演会の前には、スピンオフ小説『僕が君の名前を呼ぶから』でも出てくる原尻の滝も見に行ったりしました。

乙野四方字さん講演会での質問応答

定員300人に対し、来場者は200人ほど。乙野四方字さんも仰ってましたが、もっと少ないと思ってました。

予め用意されたり、申込時に寄せられた質問から答えていく内容で講演会は進んでいきました。

書き留めておいた(+記憶)内容を紹介していきます。箇条書き的になりますがご了承ください。

※一部、明言はされなかったもののこれは流石にオフレコだろうなという問答は記載を控えています。

君愛/僕愛のストーリーを考えたきっかけは?

高校時代に遊んだゲームを通して、こんな話を自分も作りたいなと考えていた。

並行世界はセガサターンの『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』や、学校で掃除当番表を回すところからもイメージ。

ただ、そのままだと二番煎じになってしまうので、自分なりに科学的に説明できないかと思って虚質科学を構想し、小さい移動は日常的に行っているとした。

交差点の幽霊は、プレステの『街 〜運命の交差点〜』から発想を得たことと、昭和通りをグルッと囲む歩道橋があったことに都会感を覚えたことがきっかけ。

小説に出てくるスポットで思い入れがある場所は?

映画には出てこない場所だけれど、田ノ浦ビーチ。

カップルの聖地のようなところなので、妄想を膨らませていた。

アニメ映画化までの経緯は?

小説を出した2016年時点で、映像化のオファーは「テレビアニメ化」「実写映画化」「アニメ映画化」の3つが来たが、自分のイメージに合うのが2本同時公開のアニメ映画化だった。

ただ、途中でポシャるんだろうなと思っていた。コロナの影響で製作が滞ってしまったこともあり、公開まで6年掛かった。

キャラクターの声について

最初は自分のイメージと違うなと思うところもあったが、見返す度に馴染んでいって、今はこの声しか無いと思うようになっている。

学生期から壮年期まで年齢の幅を演じないといけないので大変だったと思う。

君愛/僕愛の小説の経緯について

プロットの段階では『君愛』だけ1冊の予定だったが、担当編集から別の並行世界を描く話と合わせて2冊同時という提案を頂き、『僕愛』を企画・執筆した。

企画順としては『僕が君の名前を呼ぶから』(以降『名前』)が一番最初で、中学生の頃から考えていた。今回ようやっと小説として書けた。

企画順は『名前』→『君愛』→『僕愛』、執筆順は『僕愛』→『君愛』→『名前』と逆順になる。

『君愛』『僕愛』の執筆期間は2冊あわせて2ヶ月ほど。

小説家になったきっかけは?
娘がやりたいことが無いと言っているので参考にしたい。

小説家になりたくてなったと言うより、音楽だったりゲーム製作だったり、興味のあることにとにかく手を付けて、やったことを他の人に評価して貰った。

それを続けていって、満足したところでやめた物もあるけれど、満足できずに最後まで続けていたのが小説執筆だった。

そして25歳の頃に友人から、これだけ続けているなら何か応募してみれば、と提案されて今に至る。

なので、やりたいことが無いと仰るけれど、色んな事をやってみるのがスタート。その中で自分に合った物が残ると思う。

小説家として苦労していることは?

正解が無いこと。

まさに並行世界だが、Aという結末とBという結末の構想があって、Aの結末で世に送りだしたら、「もしかしたらBの方が良かったかも知れない」という気持ちを一生抱え続けることになる。

豊後大野市で好きな場所、おすすめの場所は?

好きな場所は沈堕の滝。行ったら何かを感じるので、行ったことが無い人は是非行って欲しい。

おすすめの場所は原尻の滝。住んでいるときはあれが滝だと思っていたが、外に出てみると実は珍しかった。

沈堕の滝・原尻の滝は、小説を書く際に盛り込んでいきたいと思っている。原尻の滝をメインにして書くのはとっておきで。

小説を書く上で影響を受けた作品は?

ゲームは冒頭で述べたので、小説だと山口雅也さんの小説。ミステリー小説ながら、登場人物の心情描写が深いところが面白い。

乙野四方字おとのよもじ」というペンネームの由来は?

「乙」は、一番好きなマンガ『らんま1/2』のおと乱馬から拝借。

「野」は、本名の一部。

「四方」は、ヨモギ(四方木とも書く)から。止血効果の成分もあり、自分が生きてるのはヨモギのお陰もあるかもという感謝を込めて。

「字」も、本名の一部。

タイトルの「すべて」「ひとり」を平仮名にしている理由は?

出版業界の慣例で、平仮名で書く開く言葉・漢字で書く閉じる言葉という考え方があり、「すべて」「ひとり」は開く言葉のため。

加えて、「ひとり」は平仮名で書くと「一人」「独り」の両面に受け取れるというのもある。

自分が行ってみたい並行世界は?

20代の頃に演劇をしていたが、所属していた劇団が解散した際、新しい劇団を作らないかと提案されたことがある。

結局は断ったが、その誘いに乗っていたらどうなっていたのだろう、と気になることはある。

とは言え、今の自分より成功していたら何か嫌なので、今の自分が最善の世界だと考えている。

小説内に科学的なことを書かれていますが、文系ですか?理系ですか?

高校が工業高校だったという意味では理系かもしれない。けど小説書きは当時から好きだったので文系かも。成績は中くらいだった。

科学的な話は独学で調べて学んだ。なので学生のうちに色んなことを学んでおけば、調べる時間が減らせると思う。

九州大学や大分大学など、小説中で実在の地名を使ったのは?

読む方も書く自分も、その方がイメージしやすいから。あとはサービス精神も込めて。

逆に、穂尾付ほおづき豊野重町とよのえまちなどが架空の地名なのは?

デビュー作(『ミニッツ』シリーズ)を書いた当時は、実在の地名を使っちゃいけないと思って架空の地名にしていた。

『名前』で豊後大野市を書いた際も、穂尾付・豊野重町は先に使っていたのでそれを継承。

あとで、実在の地名を使っても構わないと言うことが分かり、最近は実在の地名にしている。

ちなみに豊野重町は、後大市三の略。

登場人物の名前の由来は?

作品によって違うが、君愛/僕愛に関しては役割から。

栞は、並行世界を本に見立てたときに、その中に挟まれている栞から。

暦は、栞は途中で止まってしまうのに対して時間が進み続けることを、カレンダー(暦)に見立てて。

和音は、世界を重ね合わせて奏でられる物語(和音・わおん)から。

ちなみに、この回答は早川書房の公式noteでも触れられています。『名前』の進矢の由来もあり。
https://www.hayakawabooks.com/n/n5f7d98ceebc6

小説執筆は原稿用紙?パソコン?

圧倒的にパソコン。

業界的にも9割ほどパソコン。原稿用紙で書く方も居るが、特に原稿用紙で書くメリットが無いと思う。

子供の頃によく見ていたテレビ番組は?

ペンネームの由来でも挙げた『らんま1/2』や、あとは『ふしぎの海のナディア』など、とくにくアニメ好きだった。

高崎暦と日高暦、自分に近いのはどっち? 理由も添えて。

どっちとも似てないと思う…。暦に自分を重ねたことは一度も無いので。

強いて言えば、頼りがいが無い高崎暦の方?

豊後大野市での思い出は?

緒方五千石祭。小学生の頃、地域代表で餅巻きをする役目だったが、それをすっかり忘れていて怒られた思い出。

あとは父親が電気工事士をしていて、道の駅が出来る前に電線を通す工事を手伝ったこともある。

その道の駅に売っていた酒饅頭で、中に味噌が入っているのが好きだったけど、最近行ったら餡子しか無かった。


以上が講演内容となります。次ページは講演会に参加して私の個人的な感想。